記憶

あなたがいなくなってから随分と季節が流れました
庭先から見える公園の梅の花も 何度咲き 何度散っていったでしょう
時間は流れていくものなのですね
あなたがそう教えてくれたように

今でもあなたの事を思い出す事はあります
眠れない夜に
予定のない休日に
不意にかかってきた電話の音に
あなたの影を探してしまう僕がいます

ただ それも随分と少なくなってきました
あなたの事を忘れている瞬間に気付くときには
僕も時間の流れに飲み込まれているのだなと感じます
悲しい事ですが

あなたが僕達の時間から脱却した時
僕は路を失ってしまったようでした
あなたの存在の大きさをはじめて知ったから

何日も泣きました
何日も苦しみました
あなたと同じ道を歩こうと思ったこともありました
でも今こうして目を閉じると
それも過去の風景へと塗り替えられてしまいました

僕とあなたとの記憶はいずれ消えてしまうのでしょうか
時間は流れていく時に想い出をさらっていってしまうのですよ
僕とあなたの思いでもいつかさらわれて消えてしまうのでしょうか
波打ち際の砂文字のように

でも 今はその事を恐れてはいません
なぜなら僕達が共に過ごした時間は(わずかなひとときだとしても)
永遠に存在していくはずだから
僕達の思い出が消えてしまったとしても
その時間が存在していたという事実は揺るがないのだから
僕は恐れないのです

今僕はあなたが歩けなかった道を歩いていこうと心に決めました
あなたの分まで
あなたの為にも

流れていく時間の中に僅かでも何かを残せるように
あなたは精一杯自分の人生を生き抜きました
あとは僕達が引き継ぎます
あなたと同じ時間を過ごした事を
僕は誇りに思い今日も生きていきます

追伸
今朝あのコがはじめて自分の足で立ち上がりましたよ
彼女も精一杯生きていこうとしている様です
いつか大きくなった時には あなたの話しをしてあげたいと思っています