日常百景


1
神戸の街が一夜にして灰燼と化したニュースを
ニューヨークの少女はホットドッグを食べながら聞いた
崩れ落ちていくビルが ハリウッド映画のようで
現実と虚実が入りまぜになったまま
彼女は奇妙な高揚感を覚えた
2
阪神タイガースが日本一を掴み損ねた日
横浜のOLは故里の父が死んだ事を聞いた
テレビから聞こえてくる歓声と怒声は
遥か遠くに存在し忘れられ
電話からの母の嗚咽だけが現実を突き付けた
彼女は飲みかけのビールをそのままにして家を出た

アメリカでBSEが報告された日
宮崎の青年は養鶏場で
彼と同じ日に生まれた全ての家畜の事を思った
同い年の牛はどこにも存在しない現実の中
彼だけが生きている事が種の優位性であることを悟った

ニューヨークの尖塔が一瞬のうちに消えた朝
神戸の少女はまだ眠りの中にいた
生まれ変わった街で生まれたばかりの彼女は
どこかで大地が震えた感覚をおぼえながら
夢の中でフルーツパフェにスプーンをのばした

ニューヨークの彼女は眼前の光景に絶句し
立ちすくし 恐怖し その後悲しみの涙を流した
かつての神戸のニュースはすでに駆逐されていた
自分だけの不幸に我が身をゆだね
あの日のホットドッグはすでに忘れ去られていた

横浜の彼女はインターネットの速報ニュースを見た
ディスプレイの中に写し出された写真が
まるで映画の1シーンであるかのように見えた
虚実と現実はここにも訪れた
彼女は電話に手を伸ばし 何年ぶりかに故里に声を届けた

アフガニスタンで米軍旗がはためき
イラクの空をヨーロッパの飛行機が飛び回る
伝えられる情報は加工された音で
少しの遅れもなく破裂音が聞こえる
僕はなんと愚かしい行為なのかと口にしながら
同じ口に牛丼を頬張る

北朝鮮の餓死寸前の子供を写し出すニュースを背景にして
目の前の写真で彼は自慰をはじめた
世界は常に虚実と現実の境い目に存在する