詩人♯1

世界に何かを生み出す事
世界に何かを伝える事
世界を動かす力
世界を守る力

そんな物は必要ない

僕は詩人
流れていく時間の中で世界を見つめ続ける存在

詩人は世界と交わらない

 

詩人♯2

詩人は目に見える場所では必要とされる事はない
何も生み出しはしないのだから

存在する事 それだけが使命

 

詩人♯3

薄暗い雲の間から顔を出した太陽を見て
僕は今日も一日が始まってしまった事を知る

彼女だけが変わる事なく悠久の時を刻むのだと誰かが云った
その太陽の下で否応なく僕達は変わっていくのだと
その時の悲しい声を忘れる事が出来ない
今はもう、名前も、顔も、髪の色すら思い出す事はできないのに

人は変わる物だと誰かが云った
大人にならなければならないと誰かが云った
その言葉はすでに灰色の遺伝子に刷り込まれていて
誰が口にしても同じ声にしか聞こえない

僕は詩人を名乗った時に
彼等を見守っていく宿命を背負ったのだ
ある意味太陽と同じ無意識の存在

変わってしまう事を責める事はできない
変質してしまった彼等に干渉することも許されない
なぜなら僕は傍観者
鎮座する太陽

だけども慣れてはいけない
その瞬間に僕は詩人としての力を失う
人の痛みと悲しみを見つめ、そして世界に解放する
その刹那、人は世界と一体化する

詩人の役割はいわばその橋渡し

世界と交わってはならない
平行線を保ちながら世界を見つめ続ける
詩人は世界に必要ないのだから
太陽の痛みと哀しみを知りながら、僕は今日も生きる

 

詩人♯4

夜の帳がおりて、暗黒が世界を包み込み
人工的な蛍光色によって 輪郭のみが
わずかにその跡を残す

けものがこの世界を支配していた時代を超え
僕達がこの大地を支配する時を迎えても
この闇だけは何も変わらない

僕は生まれた時に已にことばを知っていた
いや ことばがあったからこそ
僕はうまれる事ができたのかもしれない
何千年 何億年の太古、ことばをしらないけものたちは
おのれの存在すら気付かず
空の在り処すら知らず
命の輪廻など考えもせずに
ただ そこにいた

僕達がこの闇のなかに自分の姿を残す事ができるのは
人工的な光によってではなく
ただ ことばがあるからなのだ

僕はこの闇に向かって叫び
闇は沈黙で答える
静寂が僕の声を飲み込み
ことばが世界に拡散していくわずかな一瞬だけ
僕は世界と一つになる

僕はことば
世界を構成するたった一つのことば

 

詩人♯5

キーボードに向かい、文字を叩き付ける時
自分を取り巻く世界の矛盾に吐き気をもよおす
それでも、世界を愛する気持ちにかわりはなくて
どうする事も出来ずにただうなだれる僕

僕が世界を守ると
幼い頃口にした夢は
今、幻想へと変換されていく
これがオトナになることなのだと言い訳をしながら

古い写真の中で遠くを見つめる僕の視線は
一体何処を目指していたのだろうか
いや、もしかすると何処ではなく何時だったのか

少なくとも彼の目指していた僕は
今の僕ではない
もっと違う世界の僕だったはずだ

しかし
今の僕こそが真実なのだと
誇りを持って言える
偽りの自分を探すために旅に出る馬鹿者よりは
ずっと正しい生き方をしていると

人込みにまぎれて生きていく事を恐れ
友人の幸せを妬み
誰かに愛を与えたいと願いながら、愛を求め
我侭な生き方で誰かを不幸にする僕

僕はオトナになった
でも、オトナになってしまった事の痛みはまだ忘れていない
世界の矛盾をキーボードに叩き付ける瞬間
僕はわずかに救われる

 

詩人♯6

 水を飲まなければ生きていけない
 でも、ワインを飲まなくても生きていける

 米を食べるなと言われれば辟易する
 でも、パンを食べるなと言われてもかまわない

 謝ることを知らないオトナになりたくはない
 謝ってばかりのオトナにもなりたくはない

 故里の香に慣れてはならない
 必要な時にとっておけばいい

 旅に出なければいけない
 ここで朽ちては意味がないから

 我侭で孤独
 傲慢で繊細
 怠惰で勤勉
 矛盾の塊
 詩人の魂

 水を飲まなければ生きていけない
 観察しなければ生きていけない
 僕は世界の路地裏に爪痕だけ残す