慟哭の夏

お願いします 生きて下さい
お願いします 行かないでください
誰でもいいから 助けて下さい
彼女をここにとどめおいて下さい

あなたの代わりになるものなど何もないのです
あなたの髪のにおい
あなたの歌うような声
あなたの柔らかな肌
あなたが微笑む度にときめく僕の心
全てあなただけのものなのです

あなたが望んだものは もうここにあるのです
それなのになぜ あなたは苦しみ続けるのですか
私はあなたの命が残ればよかったのです
私たちが作った命など
本当はどうでもよかったのです
あなたがいたからこそ
私はこの子を愛せると思ったのに

神よ 
なぜ この子の命と彼女の命を天秤にかけた
はじめから定められていた運命ならば
私はこの子の命を御身に捧げたでしょう
この子の内腑が必要なら喜んでえぐり出し
食えと言われれば喜んで食んだでしょう
私は地獄に堕ちてもいっこうにかまわない
この残酷な運命を逃れる事ができるのならば

あぁ 私を罵るなら罵ればいい
人として 許されない願いぐらい分っている
鬼畜と呼ぶなら呼べばいい
業火に焼かれる 永遠の苦痛ぐらい覚悟のうえだ
それよりもあなたを失う この瞬間をどう耐えろという

あなたの呼吸は次第に弱くなっていく
あなたの苦悶の表情は安らかになることもない
この部屋の中ではいままで経験した事もない
激しい戦いが続いている
それなのに なぜのどかな蝉の声が聞こえてくるのだ
穏やかな夏の一日の中に
なぜ 私達は苦しまなければならないのだ

あぁ お願いします 生きて下さい
誰でもいいから 助けて下さい
絶望が私を侵食してしまう前に